大不況の足音(その1〜3)

宮崎正弘氏のメルマガからの転載です。

大不況の足音シリーズ1〜3です。
それにしても、歴史残る大きなうねりの中にいるかと思うと感慨深いですね。
生き残れるように頑張って行きましょう!

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宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
    平成20年(2008年)9月19日(金曜日)弐
         通巻第2323号  
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(大不況の足音 その1)

 中国株、70%の大下落。当局、大々的な市場介入へ
   リーマンへの出資、中国工商銀行だけでも1億5180万ドルだが。。。
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 「中国は株式売買の印紙税を暫定的にゼロとする措置に踏み切ったほか、国内株式市場への買い出動を関連各部門に通達した」(フィナンシャルタイムズ、18日付け)
 
 昨年10月16日のピークから上海株式指数は70%の暴落を更新中で、即断即決の独裁国家だけに、対応は素早い。
しかし効果は期待できまい。

 中国は、その世界一の外貨準備高=1兆8000億ドルのうちの、7000億ドルが米ドル建て、そのうちの4000億ドルを米国債保有している。
ということは残り3000億ドルのうちの多くがリーマン、AIG、ベアスターンズなどへの投資と考えられる。

 恐ろしい勢いで外国資金が撤退を始めている。
中国からも、日本からも。中国語は、これを「金融風暴」と表現し、ウォール街では「これぞ911に匹敵する金融テロ」と表現する投資家もいる。
ともかく後世の経済史家は、これを「大不況の始まりに過ぎなかった」と書くだろう。

 日本株ウォール街に連動して連日暴落を続けるのは、ウォール街の投資家、金融機関が手元資金を充足するために損切りであっても、外国に所有する株と債券をたたき売って、手元にかき集めているからだ。
このため、外人株主比率の高いソニーキヤノントヨタなどエクサレント・カンパニーが軒並み下落した。
日本の優良株ですら、この有様。

「本来なら、日本独自のカンを働かせて勝負に挑む是川銀蔵などが健在なら、絶好の買いですが」(ト弱気に笑う市場関係者)。

 さて中国の金融機関が保有するリーマン・ブラザーズへの出資額の一部が判明した(17日、新華社、多維新聞網など)。
中国工商銀行が1億5180万ドル、中国銀行が7562万ドルに加えて、同行のNY支店が、5000万ドルを独自に融資している。
 中国招商銀行が7000万ドル。中国興業銀行が3360万ドル、ほかに中国建設銀行は「保有しているが、金額は不明」と情報開示を拒み、交通銀行も「保有しているが限定的」とした。

 蛇足だが、米国では1933年に制定された「連邦預金保険制度」により、個人の預金は各口座で10万ドルを上限に保険で保証されている。日本もこれにならって上限1000万円の預金は保護される。

 にもかかわらず全米各地で取り付け騒ぎが起きており、AIGシンガポールなどでも解約のために長い列が出来ている。
日本は?
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(大不況の足音 その2)

 世界通貨体制は破綻へ至るのか、世銀IMFは機能不全に陥る
  アメリカの衰退、ドル本意の衰弱、モラルハザードの諸問題
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 昨年頃からグリーンスパンFRB議長は「信用の劇的な収縮がおこるだろう」と警告してきた。
グリーンスパンの警告は主として中国のバブル経済に向けられた発言だった。

だがサブプライム危機を、一昨年から警告してきた人物がいる。
 世界一の投機家といわれるジョージ・ソロスである。
 ドル決済システムの衰退、ドル本位制の部分的な崩落や原油高、異常な金の高騰をああだこうだとエコノミスト達がさえずっていた頃、ジョージ・ソロスは悪性な問題の所在を的確に突いていた。

ソロスの所論は、なぜか主要な経済新聞とか『週刊ダイヤモンド』『週刊東洋経済』という雑誌ではなく、言ってみれば経済理論誌とはかけ離れた『週刊現代』に掲載された。

 つまり返せるか返せないかもわからない人に住宅ローンを貸し付け、最初は低利の魅力だが、いずれ雇用を失ったり、賃金が下がったり、反対に金利があがったりすれば、個人の債務不履行が生じる。景気が右肩上がりの時は、強気でごまかせても、いったん経済が不調になればクレジットカード破産が目立つように住宅ローンは不払いが急増するだろう。
その債務は、ドル急落とか、株式の急落よりも桁違いのスケールであり、これが一気に爆発するおそれが高いとソロスは早くから警告してきた。

 米国政権やウォール街の思惑とは逆のことをいうので、ソロスの警告は無視されがち、しかもアカデミズムの世界は、ソロスを虫けらのように嫌った。

 リーマン・ブラザーズメリルリンチも、ソロスの警告を無視して強気のビジネスを展開した。ファニーメイフレディマックも、安泰安泰、役員も従業員ものんびりとしていた。

 コンピュータと金融工学の発展により、住宅債券は、デリバティブによって次々と転売されており、最終的に誰がもっているのか、わからない状況が2007年8月まで続いていた。
 その総額は邦貨500兆円から1000兆円と見積もられた。

  (この項、次号へ続く)
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宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
    平成20年(2008年)9月20日(土曜日)
         通巻第2324号  (9月19日発行)
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(大不況の足音 その3)

 ジョージ・ソロスの警告はこうだ
   信用の過大な膨張と市場原理主義への信仰が大危機を招いた
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 (承前)
 ソロスは超バブルの世界的爆発の元凶をこう分析してみせる。
 「(ウォール街などで)人々が謝った投資行動を続ける原因になった『支配的なトレンド』と『支配的な誤謬』とが存在した」

 つまり前者は信用の膨張、後者は市場原理主義という自由放任である。
 二つの誤謬は、しかしブラックマンディからITバブルアジア通貨危機、ロシア国際危機などが国際協力やFRBの素早い措置などでかろうじて処理されてきたために「正しい」と誤解され、皮肉にもかえって強化されてしまった。

 野放図な金融自由主義が大手を振って闊歩したのだ。
 その結果、「超バブルがここまで大きく育つことを許してしまったのである。これ以上の信用膨張がもはや不可能となり、しかも市場原理主義の誤りがあまるところなく暴露されてしまった今回の危機は、歴史の大きな転換点とならざるを得ないだろう」(徳川家廣訳『ソロスは警告する』、講談社

 信用の膨張というのは、個人の預金もないのにクレジットカードで高級車を買うような行為を周囲のみんながやっていると考えると理解が早道である。
 無職、無収入のひとにも、書類を偽造して収入があるかのように偽装して、住宅ローンを組んだり、いやこれを不動産ブローカーが斡旋したり、その住宅ローンをひとまとめに証券化し『資産担保証券』なんちゃってまんまと転売した。
これをCDO(Collateralized Debt Obligation)と言う。
(中国はこの手法をまねて同じことを大胆におこなった。そのツケはこれからくるが、これは後日)

しかも米国の由緒ある格付け機関が、こういう怪しげなCDOにトリプルAの評価を与え、(ファニーメィとフレディマックの債券は「米国財務省証券より信用がある」などと関係者によって吹聴された)、結局売り手と買い手が、最終的に誰なのか、リスクは低くなるというふれこみは結果的に嘘だった。
金融工学上の仮説は、途中で崩れていたのだ。

だが、ウォール街の老舗名門証券は「手数料が数億ドル」と聞いて目の色を変えて投資家にCDOを売りまくり、機関投資家へ転売、転売。これって、事故米を次々と転売し、いったい末端の被害が天文学的になっていた自体を事件発覚後にわかった農林政策の大ポカに似ていないか?

悪いことにヘッジファンドがCDOビジネスに目をつけ、ソロスの定義を借りると「無許可の保険会社」として、CDOの証券を保証するということで保険手数料を稼ぐ契約を次々と成立させていった。
かくして、これらCDO契約の残高は42・6兆ドル(邦貨換算で4500兆円前後)!


 ▲パラダイムの変更を求められている

「『市場は常に正しい』という考え方は、『市場はファンダメンタルズの反映である』という幻想からくるものだ(中略)、バイアスのかかった期待がループのようにどんどん強化された結果、バイアスのかかった方向にどんどん逸脱していくことにあり、それが行き過ぎるといずれは自己崩壊を起こしてしまう。これがバブルの興亡である」(ソロス前掲書)。

 BRICKs諸国の勃興、新しい富が産油国に集中し、レアメタルの高騰で豪州、カナダ、南アの通貨も膨らみ、米国以外の国々では「ドル離れ」を引き起こし、それがこきまざって、変動相場制度、ドル本位制をも大きく揺らし、結局、世銀IMFという戦後経済体制を根底的に動揺させている。
大不況は世界的規模で同時多発テロのように開始され、これから米国の消費激減とロシア、中国の陥没などが世界的なシステムの変更を否応なく促すだろう。

 そして最後にソロスはモラルハザードの問題を掘り下げる。
 第一は金融技術の革新とテンポは、当局が追いつけない高度な、しかし不健全なレベルに達しており、第二にドル保有意欲の劇的な減退が過度のユーロ高とドル離れを惹起し、第三に銀行は自己資本を損壊させていながら不良債権の裁定を怠り、この三つの元凶がモラルハザードを産み、解決を短時日でなせることはあり得ない。
 
 かくて一つの時代が終わり、私たちはパラダイムの変更を余儀なくされる。
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